今も記憶に残る介護の体験~訪問入浴編~
訪問入浴とは、自宅の浴槽に入ることが困難な方や、入浴介助の負担が大きく、定期的に入浴を行うことが難しい方に、自宅での入浴を提供するサービスです。
最近は通所系のサービスの中で、入浴をする機会も増えてきましたが、通所利用も困難な利用者さんやその家族にとっては、満足される貴重な在宅サービスのひとつです。
今回は、訪問入浴の職員から、心に残る体験談を聞いてきました。
最期に大好きだった入浴をさせてあげたいという家族の思い…
これは、訪問入浴で看護師として働くAさんの体験談です。
60代後半、末期がんで余命宣告を受け、本人の意思で、病院から退院。その後、自宅療養となったBさんを、同居の夫と娘さんが介護をしていました。主治医からは、いつ急変してもおかしくないという話は聞いていたそうです。
ある日、介護している娘さんの方から「主治医には、ここ1週間が山だと言われた。この先、いつどうなるかわからない状況なので、一度でいいので、大好きだったお風呂に入れてあげたい」と、担当ケアマネジャーに話があったそうです。
もちろん、病状的にはいつ急変するかわからない状況ではありましたが、主治医やケアマネジャー、訪問入浴担当者、家族との話し合いの結果、訪問入浴を利用していただくことになりました。
Bさんは、寝たり起きたりの状態が続いていましたが、午前中に主治医が往診し、許可をもらった後、短時間ではありましたが、入浴していただくことができました。入浴中には、娘さんもスタッフと一緒に身体を洗い、Bさんも穏やかな表情で入浴していたのがとても印象的でした。
その翌日、Bさんは安らかに息を引き取りましたが、念願のお風呂に入れてあげることができたと、家族に喜ばれたことを今でも覚えています。
本人の気持ちに添えなかったことを後悔…
以前訪問入浴で働いていたCさんが、自宅で寝たきり状態となり、大好きな自宅での入浴ができなくなった90前半のHさんの話をしてくれました。
Hさんは、加齢に伴い少しずつ全身の状態が落ちていき、部屋の中で訪問入浴を利用し、半年以上が経過していました。週2回の入浴をとても心待ちにしていましたが、だんだんと入浴後、ぐったりするほど体力を消耗する状態になっていたとのこと。
そんなある日の訪問入浴の際、Hさんの方から珍しく、「あと5分入っていたい。」との言葉が…。しかし本人や家族には、入浴後の体調の急変等の心配もあることを説明し、その日はそのままあがることで了解を得ました。
本人の意向に沿うことができなかったことが、その日何故かチーム全員の頭の隅に残り、次回はできる限り入れてあげようと思っていたのですが、その2日後に、Hさんが亡くなったという連絡が事業所に入ったのです。
今思い返してみても、あの日の体験と後悔が今も忘れられません。その後Cさんは、他の介護職に転職をしましたが「もう少しこうしたかった。」と言うような気持ちの利用者さんを作りたくない…。こうした思いをいつも心に刻みながら、今も仕事をしているそうです。
まとめ
訪問入浴の仕事は、体力的にもとても大変な仕事だと言われています。しかし、利用者さんの気持ちよさそうな笑顔が、最大のやりがいでもあると言われています。
「お風呂に入る」という、ごくごく当たり前のことが、なぜこんなに喜ばれるのでしょうか。もちろんお風呂に入り身体を洗うという行為によって得られる気持ちよさや満足感もありますが、入浴の裏側にあるそれぞれの人のドラマがあるような気がします。
ケアマネの私自身、自分の担当利用者さんから、念願の訪問入浴を終えた後に、それまでは「お風呂に入れたら、もう何も思い残すことはない」と、聞いていたのに「来週も入りたいからもう少し頑張って生きてみる」という言葉をもらいびっくりしたことがあります。改めて訪問入浴の重要さを感じています。